好きなものを好きといえるようになったのはいつからだろう

 

「月・水・金はスイミング」という大好きな作品について話したい。

福島鉄平先生によるジャンプに掲載された43Pの読み切り作品である。

 https://stat.ameba.jp/user_images/20110211/21/tsuna-t/d9/22/j/t02200351_0533085011041960121.jpg

どこが好きかというとまず二人の距離感である

女の子は有川マドカさん 男の子は千葉オサム君

同じクラスの中学三年生 通ってるスイミングクラブも一緒

でもそれだけ 

 このナレーションで心をつかまれた同志は必ずいる。読んだ人は知っているがこの二人の関係性は本当に「それだけ」なのである。でも「それだけ」でも気になってしまうのが中学生なのだ。

 この作品の好きなところである主人公オサム君の気になり方の演出がさすが「サムライうさぎ」の福島先生だ。オサム君はマドカさんの会話をこっそりと聞き、こっそりと胸の内で返答して考えが同じで喜んでしまうのである。これは恋心なのか、、、答えはNOだ。ただ同じスイミングに通っている女の子のことを特別に感じているだけである。

 オサム君はマドカさんがスイミングをやめることと知ると「とてもつまらない」思った。中学で会えるし、高校も同じなのに。。。 オサム君にとってスイミングは自分だけがしている特別なことであり、いってしまえばマドカさんとの二人だけの秘密なのである。この言葉はとても高い攻撃力を持っていることはスカウターを使うまでもない。

マドカさんには会えないと思っていた次のスイミングの日に予想外のエンカウントをする。その時にオサム君は「ひとりじゃつまらない」と口に出してしまう。ここでオサム君は自分が口にした言葉のおかしさに気づく。(別に一人ではない。っていうかもともとマドカさんとはなんのつながりもない)しかし同じ中学というつながりは町のスイミングスクールでは意味を持つのである。それと同様男の子が女の子に興味を持つ理由としては結構なものである。

 

最後 作品の締めにはこうある

 この子はオサム君 この子はマドカさん 

同じクラスの中学三年生 通っていたスイミングクラブも一緒

でも それだけ

一緒に遊ぶこともなく会話を交わしたこともほとんどありません

けれども けっして遠くはない

そしてそれは きっとこのさきもーー

 けっして遠くないのよ! だって同じ中学出身で同じスイミングクラブいってるんだもん!!そりゃ遠くないよ!! 

 

中学生ってさ一番男女の関係が難しい。男の子が女の子が好きなんて絶対言えないし純愛も鼻で笑わなきゃいけないのである。でもそのルールが適用されるのは学校でありスイミングに通っているオサム君には適用されないのだ。もう学校という世界を俯瞰で見ることのできる大人の読者がオサム君のことを大好きになってしまう理由であると思った。

 

大人になると自分の好みもある程度分かってきてある物や人を見たときに全貌を理解しなくても自分の好みであるか好みでないかは判断できる。しかし中学生であるオサム君にはまだ自分がどういうもの好きで、どういう人が好きなのはわからない。若い世代にとって出会いには打算のようなものがない。大人になってしまった多くの人は忘れてしまっているのかもしれないが自分が胸を張って何かを『好き』といえるようになるまで時間がかかったと思う。なぜなら「これが好き」といったら多くの人は「なんで好きなの?」と返されそこでは「なんとなく?」といった回答は期待されていなくしっかりとした言語による説明が求められ、答えを見つけるまで時間がかかったことだろう。

「月水金はスイミング」ではなにかを好きになったきっかけやなにかを好きになった過程といった事象の心の動きを繊細に慎重に切り取っていて、そこが多くの人に当てはまるのである。これが多くの人がこの作品に心を打たれた理由である